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5.5. ドータカ学徒の問い 1072

1072.(1065)

【経典文】
" Anusāsa brahme karuṇāyamāno,
 vivekadhammaṃ yamahaṃ vijaññaṃ;
 Yathāhaṃ ākāsova abyāpajjamāno,
 idheva santo asito careyyaṃ ". (5)

【正田氏訳】
 〔尊者ドータカが言った〕「梵たる方よ、慈悲ある者として、教えてください――わたしが識知しなければならない、〔まさに〕その、遠離の法(教え)を。すなわち、わたしが、虚空のように、加害〔の思い〕なく、まさしく、この〔世において〕、寂静なる者として、依存なき者として、行じおこなうべく」〔と〕。(5)

【文法的分解と単語訳】
(1行目)
  Anusāsa(anusāsati:v.2.sg.imper.「教えてください」)
  brahme(brahmā / brahma:a.m.sg.voc.「梵たる方よ」)
  karuṇāyamāno(karuṇāyamāna :a.m.sg.nom.「悲心をいだいている者として」< ppr. of karuṇāyati < denom. of karuṇā)

(2行目)
  vivekadhammaṃ=vivekaとdhammaṃのコンパウンド
   viveka(viveka:m. 「遠離(の)」)
   dhammaṃ(dhamma:m.sg.acc.「法を」)
  yamahaṃ=yaṃとahaṃの連声
   yaṃ(ya:pron.m.sg.acc.「〔それ〕を」)
   ahaṃ(ahaṃ:pron.1.sg.nom.「私が」)
  vijaññaṃ(vijānāti:v.1.sg.opt.「識知したい」)

(3行目)
  Yathāhaṃ=yathāとahaṃの連声
   yathā(yathā:adv.「ように」)
   ahaṃ(ahaṃ:pron.1.sg.nom.「私は」)
  ākāsova=ākāsoとevaの連声
   ākāso(ākāsa:m.sg.nom.「虚空である」)
   eva(eva:adv.「ただ」)
  abyāpajjamāno(abyāpajjamāna = avyāpajjamāna / avyāpajjhamāna < a + ppr. of vyāpajjati:a.m.sg.nom.「加害〔の思い〕なく」*1)

(4行目)
  idheva=idhaとevaの連声
   idha(idha:adv.「ここに」)
   eva(eva:adv.「ただ」)
  santo(santa:a.m.sg.nom.「寂静の者として」)
  asito(asita:a.m.sg.nom.「依存しない者として」)
  careyyaṃ(carati:v.1.sg.opt.「歩んでいきたいと思います」)

  *1  (以下は、この部分についての担当者の、勉強会後の試行錯誤備忘録のような脚注です。)
   abyāpajjamānoは、現在分詞の語源と主格ということを考えて直訳すると、「無瞋・無悩害の者として、他人に悩みや害を与えない者として」となると思うが、いくつかのパーリ語辞書(村上真完・及川真介『パーリ仏教辞典』、雲井昭善『パーリ語佛教辞典』)では、例文としてこの一節が取りあげられており、その和訳はどちらも「妨げられずに」となっていた。
   このため、能動的に訳せば良いのか受動的に訳せば良いのか疑問に思った担当者は、正田氏の助言にもとづき、注釈書という存在を知り、参照してみた。
   まず、スッタニパータに対するブッダゴーサ長老の注釈書(村上真完・及川真介『仏のことば註(四)―パラマッタ・ジョーティカー―』春秋社、1989年、102ページ)によれば、「《妨げられずに(avyāpajjhamāna)》とは、種々様々のこと(nāna-ppakāratā)に出会わないで」と説明されていた。能動的な意味での解説である。
   一方、スッタニパータ第五章の最古の注釈書、チューラ・ニッデーサ聖典(小義釈)(正田大観『小部経典 第九巻 (パーリ語原文付)~正田大観 翻訳集 ブッダの福音~』(Amazon Kindle電子書籍)Evolving、2015年、[519])によれば、「たとえば、虚空が、〔他を〕犯さず、〔他を〕掴まず、〔他に〕縛られず、〔他に〕遍く縛られないように、このように、〔他を〕犯すことなく、〔他を〕掴むことなく、〔他に〕縛られることなく、〔他に〕遍く縛られることなく」、また、「たとえば、虚空が、あるいは、〔赤の〕染料によって、あるいは、鬱金〔の染料〕によって、あるいは、青によって、あるいは、緋によって、染まらないように、このように、〔欲に〕染まることなく、〔欲に〕汚れることなく、〔欲に〕迷うことなく、〔欲に〕汚されることなく」、さらに、「たとえば、虚空が、〔他に〕怒らず、〔他に〕害を加えず、〔他から〕退去せず、〔他から〕打破されないように、このように、〔他に〕怒ることなく、加害〔の思い〕なく、〔他から〕退去することなく、〔他から〕打破されることなく、〔他を〕打破することなく」と、多数の言い換えで詳しく説明されていた。
   ということで、結局のところ、能動・受動両方を含んだ意味をもたせるのがより良いと考え、正田氏の訳のとおり、「加害〔の思い〕なく」が最適な訳との思いに至った。

[文法略字]
    m. masculine 男性名詞
    n. neutral 中性名詞
    f. feminine 女性名詞
    pron. pronoun 代名詞
    a. adjective 形容詞
    num. numeral 数詞
    v. verb 動詞
    adv. adverb 副詞
    conj. conjunction 接続詞
    interj. interjection 間投詞
    prep. preposition  前置詞

    1. 一人称
    2. 二人称
    3. 三人称
    sg. singular 単数
    pl. plural 複数

    nom. nominative 主格
    acc. accusative 対格
    inst. instrumental 具格
    abl. ablative 奪格
    dat. dative 与格
    gen. genitive 属格
    loc. locative 処格
    voc. vocative 呼格

    pres. present 現在
    aor. aorist アオリスト
    fut. future 未来形
    imper. imperative 命令形
    opt. optative 願望法
    cond. conditional 条件法
    pass. passive 受動詞
    caus. causative 使役動詞
    ger. gerund 連続体
    inf. infinitive 不定体
    ppr. present participle 現在分詞
    pp. past participle 過去分詞
    grd. gerundive 義務分詞
    pass. passive 受動動詞
    caus. causative 使役動詞
    denom.  denominative 名動詞

    / 他にも可能な訳や解釈
    < 単語の成り立ち

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