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4.11. 紛争と論争の経 879. (872)

【経典文】
" Nāmañca rūpañca paṭicca phasso, Icchānidānāni pariggahāni;
 Icchāyasantyā na mamattamatthi, Rūpe vibhūte na phusanti phassā " .
(11)

【正田氏訳】
 〔世尊は答えた〕「名前(名:妄想によって固定され概念化した言葉)と、形態(色:妄想によって固定され実体化した形相)と、〔その二者〕を縁として、接触は〔発生しました〕。諸々の執持〔の対象〕は、因縁として欲求(潜在的な心の衝動)から〔発生しました〕。欲求が存在していないとき、我執は存在しません。形態が実体を離れたとき、諸々の接触は接触しません」〔と〕。(11)

【文法的分解と単語訳】
(a)
 Nāmañca < nāmaṃ + ca 連声(前語語尾ṃがñに変化)
  nāmaṃ (nāma:n.sg.acc.) 「「名前(名:妄想によって固定され概念化した言葉)」
  ca (ca:conj.) 「と」
 rūpañca < rūpaṃ + ca 連声(前語語尾ṃがñに変化)
  rūpaṃ (rūpa:n.sg.acc.) 「形態(色:妄想によって固定され実体化した形相)」
  ca (ca:conj.) 「と」
 paṭicca (paṭicca < ger. of pacceti:adv.) 「〔その二者〕を縁として」
 phasso (phassa:m.sg.nom.) 「接触は〔発生しました〕。」

(b)
 Icchānidānāni < icchā + nidānāni コンパウンド
  icchā (icchā:f.comp.) 「欲求(潜在的な心の衝動)から」
  nidānāni (nidāna:n.pl.nom.) 「因縁として」
 pariggahāni (pariggaha:m.>n.pl.nom.) 「諸々の執持〔の対象〕は…〔発生しました〕。」

(c)
 Icchāyasantyā < icchāya + asantyā 連声(前語語尾aが消失)
  icchāya (icchā:f.sg.loc.) 「欲求が」
  asantyā (asant < a(pref.)+sant(ppr.of atthi):a.f.sg.loc.) 「存在していないとき」
 na (na:adv.) 「せん。」
 mamattamatthi < mamattaṃ + atthi 連声(前語語尾ṃがmに変化)
  mamattaṃ (mamatta:n.sg.nom.) 「我執は」
  atthi (atthi:v.3.sg.pres.) 「存在しま」

(d)
 Rūpe (rūpa:n.sg.loc.) 「形態が」
 vibhūte (vibhūta < pp. of vibhavati:a.n.sg.loc.) 「実体を離れたとき」
 na (na:adv.) 「せん」〔と〕。」
 phusanti (phusati:v.3.pl.pres.) 「接触しま」
 phassā (phassa:m.pl.nom.) 「諸々の接触は」


[備考:略字・記号等]
 m. masculine 男性
 n. neutral 中性
 f. feminine 女性
 pron. pronoun 代名詞
 a. adjective 形容詞
 num. numeral 数詞
 ppr. present participle 現在能動分詞
 pp. past participle 過去受動分詞
 grd. gerundive 義務分詞,未来受動分詞
 v. verb 動詞
 indecl. indeclinable 不変化詞(不変語):副詞,接続詞,間投詞,前置詞を含む総称
 adv. adverb 副詞
 conj. conjunction 接続詞
 interj. interjection 間投詞
 prep. preposition  前置詞
 pref. prefix 接頭辞
 suf. suffix 接尾辞
 1. the first person 一人称
 2. the second person二人称
 3. the third person三人称
 sg. singular 単数
 pl. plural 複数
 nom. nominative 主格
 acc. accusative 対格
 inst. instrumental 具格
 abl. ablative 奪格
 dat. dative 与格
 gen. genitive 属格
 loc. locative 処格
 voc. vocative 呼格
 comp. compound コンパウンド(複合詞,合成語)であり、次の語句と、語基等のまま(数・格なし)で結合していることを表す。
 pres. present 現在
 aor. aorist アオリスト
 pf. perfect 完了
 fut. future 未来
 imper. imperative 命令形
 opt. optative 願望法
 cond. conditional 条件法
 ger. gerund 連続体
 inf. infinitive 不定体
 pass. passive 受動動詞
 caus. causative 使役動詞
 denom.  denominative 名動詞
 med. medium 為自言(middle)(refl. reflective 反照態)

 < 二語以上が結合している場合の構成や、単語の成り立ちを後ろに記す。
  (例:「kuhiñci < kuhiṁ + ci 連声」は、kuhiñciはkuhiṁとciの連声という意味)
  (例:「sata < pp. of sarati」は、sataはsaratiの過去受動分詞であるという意味)
 > 解釈や修飾語句による性の変化を記す。
  (例:「n.>m.」は、本来中性だがここでは男性の曲用をしているという意味)
 / 他にも可能な訳や解釈を後ろに記す。
  (例:「dat./gen.」は、与格と属格両方の可能性があるという意味)

 なお、タイトルに記している二つの偈番号は、一つめが底本であるタイ版[国際版]パーリ三蔵(第六結集版を改訂したもの)に記載されている偈番号で、二つめの括弧内の番号がPTS版の偈番号です。


(文責:脇坂)

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