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4.12. 小さなまとまりの経 896. (889)


【経典文】
 Atisāradiṭṭhiyā so samatto, Mānena matto paripuṇṇamānī;
 Sayameva sāmaṃ manasābhisitto, Diṭṭhī hi sā tassa tathā samattā.
(12)

【正田氏訳】
 錯誤の見解によって、〔自らについて〕『完全である』〔と見る〕彼は、〔我想の〕思量によって驕慢した者であり、〔自らについて〕『円満成就した者である』と思量する者です。まさしく、自ら、自らについて、〔自らの〕意で灌頂しているのです(自らを自らの手で王位に就けている)。なぜなら、彼にとって、その見解は、そのように、〔彼にとってだけは〕完全であるからです。(12)

【文法的分解と単語訳】
(a)
 Atisāradiṭṭhiyā < Atisāra + diṭṭhiyā コンパウンド
  Atisāra (atisāra:m.comp.) 「錯誤の」
  diṭṭhiyā (diṭṭhi:f.sg.instr.) 「見解によって」
 so (so:pron.3.m.sg.nom.) 「彼は」
 samatto (samatta:a.m.sg.nom.) 「〔自らについて〕『完全である』〔と見る〕」

(b)
 Mānena (māna:m.sg.instr.) 「〔我想の〕思量によって」
 matto (matta < pp. of madati:a.m.sg.nom.) 「驕慢した者であり」
 paripuṇṇamānī < paripuṇṇa + mānī コンパウンド
  paripuṇṇa (paripuṇṇa < pp. of paripūrati:a.comp.) 「〔自らについて〕『円満成就した者である』と」
  mānī (mānin:a.m.sg.nom.) 「思量する者です。」

(c)
 Sayameva < Sayaṃ + eva 連声(前語語尾ṃがmに変化)
  Sayaṃ (sayaṃ:adv.) 「自ら」
  eva (eva:adv.) 「まさしく」
 sāmaṃ (sāmaṃ:adv.) 「自らについて」
 manasābhisitto < manasā + abhisitto 連声(前語語尾āと後語語頭aが結合してā)
  manasā (manas:n.sg.instr.) 「〔自らの〕意で」
  abhisitto (abhisitta < pp. of abhisiñcati:a.m.sg.nom.) 「灌頂しているのです(自らを自らの手で王位に就けている)。」

(d)
 Diṭṭhī(韻律の関係でīに変化) (diṭṭhi:f.sg.nom.) 「見解は」
 hi (hi:adv.conj.) 「なぜなら‥‥からです。」
 sā (sā:pron.3.f.sg.nom.) 「その」
 tassa (so:pron.3.sg.dat./gen.) 「彼にとって」
 tathā (tathā:adv.) 「そのように」
 samattā (samatta:a.f.sg.nom.) 「〔彼にとってだけは〕完全である」


[備考:略字・記号等]
 m. masculine 男性
 n. neutral 中性
 f. feminine 女性
 pron. pronoun 代名詞
 a. adjective 形容詞
 num. numeral 数詞
 ppr. present participle 現在(能動)分詞
 pp. past participle 過去(受動)分詞
 grd. gerundive 義務分詞,未来受動分詞
 v. verb 動詞
 indecl. indeclinable 不変化詞(不変語):副詞,接続詞,間投詞,前置詞を含む総称
 adv. adverb 副詞
 conj. conjunction 接続詞
 interj. interjection 間投詞
 prep. preposition  前置詞
 pref. prefix 接頭辞
 suf. suffix 接尾辞
 1. the first person 一人称
 2. the second person二人称
 3. the third person三人称
 sg. singular 単数
 pl. plural 複数
 nom. nominative 主格
 acc. accusative 対格
 inst. instrumental 具格
 abl. ablative 奪格
 dat. dative 与格
 gen. genitive 属格
 loc. locative 処格
 voc. vocative 呼格
 comp. compound コンパウンド(複合詞,合成語)であり、次の語句と、語基等のまま(数・格なし)で結合していることを表す。
 pres. present 現在
 aor. aorist アオリスト
 pf. perfect 完了
 fut. future 未来
 imper. imperative 命令形
 opt. optative 願望法
 cond. conditional 条件法
 ger. gerund 連続体
 inf. infinitive 不定体
 pass. passive 受動動詞
 caus. causative 使役動詞
 denom.  denominative 名動詞
 med. medium 為自言(middle)(refl. reflective 反照態)

 < 二語以上が結合している場合の構成や、単語の成り立ちを後ろに記す。
  (例:「kuhiñci < kuhiṁ + ci 連声」は、kuhiñciはkuhiṁとciの連声という意味)
  (例:「sata < pp. of sarati」は、sataはsaratiの過去受動分詞であるという意味)
 > 解釈や修飾語句による性の変化を記す。
  (例:「n.>m.」は、本来中性だがここでは男性の曲用をしているという意味)
 / 他にも可能な訳や解釈を後ろに記す。
  (例:「dat./gen.」は、与格と属格両方の可能性があるという意味)

 なお、タイトルに記している二つの偈番号は、一つめが底本であるタイ版[国際版]パーリ三蔵(第六結集版を改訂したもの)に記載されている偈番号で、二つめの括弧内の番号がPTS版の偈番号です。

 当勉強会(神戸ダンマサークル「パーリ語研修会」)では、現在、スッタニパータ4章のパーリ語原文を教材に、パーリ語文法解析学習をしています。新たに参加される方、今後参加をご検討の方、または、パーリ語に少しでも興味のある方々のために、当勉強会がどのような教材や資料でどのように学んでいるかについて紹介している記事があります(こちらのURL→http://tipitaka.cocolog-nifty.com/blog/2019/09/post-f276bb.html)ので、ご関心がありましたらどうぞご覧ください。

(文責:脇坂)

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